「竜劇隊大井沢公演」
2012年2月18日 山形県西川町

昨年に続き、雪深い山形県西川町の大井沢地区にある自然と匠の伝承館で行われた竜劇隊公演
会場のお客様はほとんど地元の方ばかりなのですが、
私は前日から大井沢に宿泊し、当日は宿泊先から徒歩で会場に向かいました。
比較的早めに来たつもりだったのですが、会場は既に人が埋まり始めており、
最終的には超満員のお客様で溢れていました。
私は花道(と言っても単なる椅子の置いてない通路なんですが)の右側の5列目に座ったのですが
ちょうど、ここが出演者の通行場所になっていた為、
何度も間近で岡本さんを見る事が出来たのは、運が良かったのかもしれません。
公演は昨年同様、朝の9時30分開始(実際は30分より早く開始)で、
前座に大井沢地区の神楽の奉納に大井沢の方々のお芝居が行われ、
会場が盛り上がった所で、いよいよ竜劇隊の公演がスタート。

第1部のお芝居は『女三界に家なし』と言う演目
私はこのお芝居、一度しか見ていないのですが、岡本さんが主役ですし
岡本さんのキャラ、笑いと真面目さのバランスの良さ、芝居としてのトリッキーさが好みの芝居なので
前日、現地に着いて今回の芝居の演目がこの『女三界に家なし』だと知った時には、非常に嬉しい気持でした。
このお芝居で岡本さんが演じるのは漁師清二の妹で、見初められて呉服問屋の嫁になる娘・お花

芝居は、花道の方から「あんちゃん、大変だ〜!」と大きな声を上げながら早速お花が登場してきます。
以前見た時の素っ頓狂な声で田舎訛りが強い上、コミカルな台詞をポンポン喋る印象そのままに
いつも以上にハイテンションな岡本さんの台詞回しが愉快でした。
まずはお花が「遊覧船が沈んだけど、誰も助けに来ない」事を兄の清二に告げ、清次が助けに向かい、お花もこれを追う所までが序盤
この序盤のやり取りに、この芝居の私にとっての一番の見せ場があります。
それはお花が清二の後を追って、沈没した船を救助に向かおうとする場面でして
ここでお花は、清二の発した格好良い決め台詞を
「八方破れの花ちゃんは、またの名を河童の花と異名を取った泳ぎ上手(中略)やんちゃ任せの…」とコミカルに真似しながら、
格好良く救助に向かおうとするのですが、
「やんちゃ任せの…」の後にかかる「ハッ!」と言うかけ声が中々かからないのです。
たまらずお花は芝居を中断し、「『ハッ!』と言う声はかからないんですか?」と音響の人に問い合わせするのですが
音響の人の返事は「テープが切れたので、自前でやって下さい」と言う物でした。

困ったお花がふと客席のお客様に目をやると
何とお客様に「声を揃えて『ハッ!』と言ってもらえますか?」と提案し始めます。
そして、お花(と言うか岡本さん)から段取りの説明があり、その指示に従い客席総出で「ハッ!」と言う掛け声を出す事になるのですが
この場面の岡本さんの喋りは、コミカルなお花と言う役と普段の真面目な岡本さんの人格が入り混じったように感じました。
テンションは非常に高めで、ユーモアに富んだ喋りが面白かった一方、客席を上手く乗せる岡本さんの仕切りの上手さも非常に印象に残りました。
いつもと違って、一回目から「ハッ」の声は割と揃っていましたが、「後ろの方の声が…」と言う岡本さんの駄目出しが入り、やり直しに。
ここで子供のお客さんに「『ハッ』って言ってみて〜」と岡本さんが促すのが面白かったです。
二回目、私を含めたお客さんが「ハッ」と言おうとした瞬間、今度は切れた筈のテープの「ハッ」が挿入される意表を突いた展開に客席も大盛り上がり。
岡本さんの「お客さん達が正しいんです」と言う言葉を信じ、三度目の「ハッ」に挑む客席
結局、三度目の「ハッ」で格好良く決まったお花は花道を通って、助けに向かうのでした。

話はこの後、清次が沈没した観光船から呉服問屋増田屋の若旦那・弥之助を助けるのですが
この事をきっかけに、増田屋の大旦那がお花を弥之助の嫁にと求め、
またお花も弥之助に惚れ、子供もできた事から、お花は兄・清二の反対を押し切って弥之助の元に嫁く事になります。
お花は清二から「女三界に家なし」(これが今回の演目のタイトルの由来)
と言う言葉を教え込まれ、夫婦生活はどんなに辛くても忍従する事が大事であると言う事を知り、懸命に弥之助達に尽くします。
ところが、遊興三昧でお花を顧みない弥之助や弥之助可愛さのあまりお花に辛く当たる父の大旦那に
お花(とその子)は辛く当られるようになります。それでもなおお花は弥之助に尽くそうとしますが
商いの為の金を紛失すると言う事態に至り、お花はとうとう家を追い出されそうになってしまいます。

お芝居自体の感想としては、ハイテンションなお花の独壇場と言った感じの前半から
後半一転して、理不尽にお花がいびられ耐えるシーンが割と長く続くかと思えば、
ラストは結局、お花の優しさが自分の窮地を脱する原動力になり
さらに(少々ご都合主義的ですが)その後の意表を突く幕切れに繋がると言う
時間の長さ以上に見せる場面が多い演目だったと思います。

ちなみにラストは、偶然千両富くじが当たってしまったお花に
増田屋父子が「千両富で傾いた店を再建したいので、下さい(でもお花は出て行っても構わない)」と言い出し
これでは清二としても、お花を木更津に連れて帰ろうとする所ですが、
お花は「”女三界に家なし”の精神に基づいて、一度嫁いだ家から出る訳には…」と清次に訴えかけます。
すると、清次(と言うか木内座長)が増田屋に残るべきか?清次と一緒に木更津に帰るか?
お客様の拍手で決定すると言う、お馴染みの流れへと持って行く事になります。
私は木更津へ…の方で拍手をしたんですが、以前湯野浜で見た時みたいに圧倒的に支持されると思ったのですが
この日の客席の反応は”木更津に戻るべき”と”増田屋に残るべき”の差は51対49位の微妙な差で有利と言う結論となりました。
後ほど、伺った話によると”増田屋に残るべき”が多かったらどう言う反応になるのか?を見たかったファンが多かったからこういう結果になったのだとか

お花のキャラについて、改めてまとめると
以前感じたような(『質屋の娘』のお福みたいな)岡本さんのイメージとのギャップが持ち味の
所謂天然キャラな面はもちろん強く感じられる一方
アニメ等で岡本さんが演じたキャラからよく感じられた”一途で心が綺麗で優しい面”に溢れているし
自殺をしようとする人を止めたり、命の大切さを説くと言うしっかりした面も見られるし
かなりしっかりした、良い意味でのお節介さに溢れたキャラと言う新たな印象も感じられました。
綺麗な岡本さんの声で”木更津の子守唄”(増田屋の大旦那には酷評されてましたけど)が聞けるのも隠れた見所ですし
人物的にはかなり良い印象を感じられました。
その上、話の主人公ですから、劇中ほとんど出ずっぱりなので、
大井沢でこのお芝居を再び見る事が出来た事は、本当に幸せな事でした。

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